このページの要点
- 禁止事項は具体的な行為を列挙し、最後に包括条項を一つ置く。包括条項だけに頼ると、基準が見えず条項の安定も損なわれる(民法548条の2第2項)。
- 営業・勧誘・外部誘導は、自己紹介や告知の場など許す場所を決めたうえで、禁止する行為を場所と方法で書く。
- 削除は、基準・事前通知の要否・記録をセットで決める。通報の窓口は一つに絞り、通報者の秘密を守る。
- 「会員間のトラブルには関与しない」と書く場合も、運営者が動く場面を別に書き、責任免除の範囲は故意・過失がある場合を除く形に絞る(消費者契約法8条)。
結論:禁止事項は「列挙」と「包括」を組み合わせ、削除は「基準・記録・連絡」をセットで運用する
会員制コミュニティの運営で、毎日のように発生する判断が「この投稿は禁止事項に当たるか」「削除してよいか」「通報にどう答えるか」です。規約の禁止事項の条文は、読みやすく、会員にも運営者にも共通の物差しになる形で書いておく必要があります。同時に、禁止事項の条文だけがあっても、実際の削除や通報への対応が場当たりなら、会員の信頼は保てません。このページでは、禁止事項の置き方から、削除の基準と手順、通報窓口の運用までを、一続きの「ルールの運用」として整理します。
結論を先に述べると、実務で安定しやすいのは、次の四点を揃えた形です。第一に、禁止事項は、会員が具体的にイメージできる行為を列挙し、そのうえで、列挙しきれない行為のために包括条項(コミュニティの目的や他の会員の利益を著しく損なう行為)を一つ置きます。第二に、削除や制限の基準は、規約の禁止事項と結びつけて書き、投稿の削除について事前の通知が要るのか、事後でよいのかを決めておきます。第三に、通報の窓口と受付の方法を一つに決め、受け付けた内容と対応を記録に残します。第四に、会員どうしのトラブルについて「運営者は関与しない」と書く場合でも、どこまでが関与しない範囲で、どこからは運営者が動く範囲なのかを、条文と運用の両方で線引きします。
このページは、運営者が設計するルールの話です。投稿の著作権や許諾は会員の投稿の権利のガイドで、警告から除名までの会員資格に対する措置は警告・利用停止・除名の手順で、スクショや録画の持ち出しは持ち出し禁止と守秘のガイドで、それぞれ詳しく扱います。ここでは、それらの入口にあたる「何を禁止し、どう削除し、どう通報を受けるか」に絞ります。なお、外部の事業者に発信者の情報の開示を求める手続は、このガイドでは扱いません。
- 禁止事項は、営業・勧誘・外部誘導・誹謗中傷・秘密の持ち出しなどを列挙し、最後に包括条項を一つ置く。包括条項だけに頼らない。
- 削除の基準は規約の禁止事項と結びつけ、「事前の通知なしに削除できる場合」と「通知してから削除する場合」を分ける。
- 通報は窓口を一つに絞り、受付の様式・確認の手順・結果の伝え方・記録の残し方を決める。
- 「会員間のトラブルに運営者は関与しない」と書く場合も、関与する場面(ハラスメント、脅し、明らかな違法行為)を別に書く。
禁止事項の置き方:列挙型と包括型の使い分け
禁止事項の書き方には、大きく二つの型があります。一つは、禁止する行為を一つずつ挙げていく「列挙型」、もう一つは、「コミュニティの運営を妨げる行為」「他の会員に不利益を与える行為」のような広い言葉で禁止する「包括型」です。実際の規約は、この二つを組み合わせます。
禁止事項の二つの型
列挙型
会員に伝わりやすい。違反かどうかの判断もしやすい
- 営業・勧誘・外部誘導、誹謗中傷、他の会員への付きまとい、秘密の持ち出し、虚偽の情報の投稿など、具体的な行為を挙げる。
- 会員が「何をしてはいけないか」を事前に理解できる。運営者も、削除や警告の根拠として条文を引きやすい。
- 列挙から漏れた行為には対応しにくい。新しい行為が出るたびに規約を直すことになる。
包括型
想定外の行為に対応できる。ただし判断が運営者に寄る
- 「本コミュニティの運営を妨げる行為」「他の会員に不快感を与える行為」など、広い言葉で禁止する。
- 列挙にない行為にも対応できるため、運営者にとっては使いやすい。
- 何が当たるのかが読み手に分からないため、運営者の恣意的な運用を疑われやすい。基準が不明確だと、条項の有効性にも影響し得る。
列挙型を中心にして、最後に包括条項を一つ置くのが、一般的な形です。包括条項を使って措置を取るときは、どの趣旨の行為なのかを、会員に説明できるようにしておきます。
規約が会員との間で契約の内容として扱われる場面では、禁止事項の条文のうち、会員の権利を制限し、義務を加重する部分が、取引の態様や実情、社会通念に照らして信義誠実の原則に反し、相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、合意をしなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。また、会員が消費者である場合、消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効とされます(消費者契約法10条)。ここでいう「消費者」とは、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人です(同法2条1項)。禁止事項を広げすぎると、これらの規定の対象になり得るため、禁止の目的をコミュニティの運営に結びつけ、広すぎる文言を避ける方が、条項の安定のためにも有益です。
条文例禁止事項(骨格)
- 会員は、本コミュニティの利用にあたり、次の各号に該当する行為又はそのおそれのある行為をしてはなりません。
- (1)他の会員、運営者又は第三者に対する誹謗中傷、脅迫、差別的な言動、付きまとい、その他の嫌がらせ。(2)運営者の許可なく行う、商品、サービス、他のコミュニティへの勧誘、宣伝、外部への誘導。(3)本コミュニティを通じて知り得た他の会員の情報の、本人の同意のない外部への開示又は利用。(4)虚偽の情報の投稿、他人への成りすまし、複数のアカウントの不正な利用。(5)法令又は公序良俗に反する行為、他者の権利を侵害する行為。(6)その他、運営者が本コミュニティの目的の達成又は他の会員の利益を著しく損なうと合理的に判断する行為。
- 運営者は、会員が前項に該当すると判断したときは、投稿の削除、投稿の制限、警告その他の必要な措置をとることができます。措置の内容と手順は、運営規程(ガイドライン)に定めるとおりとします。
条文は、書き方の例(一般的な例)です。第1項の列挙の内容は、コミュニティの目的に合わせて入れ替えます。(6) のような包括条項は、「合理的に判断する」と書いて運営者の判断の基準を示し、措置の手順を別に定める形にします。
営業・勧誘・外部誘導は、禁止事項の条文の中でどう扱うか
禁止事項のうち、営業・勧誘・外部誘導は、自己紹介での事業紹介をどこまで許すかによって運営の姿が変わる項目です。場所・相手・方法・対価の四つの軸で線を引く考え方、許す場所と禁じる方法を同じ条に書く条文例、会員を増やすと報酬が出る仕組みの勧誘と連鎖販売取引の入口は、サロン内の営業・紹介・特典のガイドで詳しく扱っています。このページでは、禁止事項の条文に営業・勧誘を入れるときの置き方に絞ります。
外部への誘導は、実務上の盲点です。コミュニティの中に宣伝は書かなくても、プロフィール欄に別のサービスの案内を載せる、個別のメッセージで「詳しくは別の場所で」と誘う、投稿の最後に自分の運営する場へのリンクを載せる、といった形で、実質的な勧誘が行われることがあります。禁止事項では、行為の場所(投稿、プロフィール、個別メッセージ)を挙げておくと、後で「投稿には書いていない」という主張を避けやすくなります。また、運営者が許可した場合に限る、と書いておくと、例外的に許す運用が可能になります。
投稿の削除:基準・通知・記録
禁止事項の違反が疑われる投稿を、運営者が削除する場面を考えます。削除は、会員にとっては、自分の表現が取り除かれる措置です。他方で、運営者にとっては、他の会員を守り、コミュニティの秩序を保つための基本的な運営行為です。ここで決めておくべきなのは、削除の基準、事前の通知の要否、削除した記録の残し方の三つです。
削除の基準については、規約に「禁止事項に該当すると運営者が判断した投稿は削除できる」と書くのが一般的です。基準を公開するかについては、禁止事項の条文を公開(規約に記載)していれば、それ自体が基準の公開に当たります。個々の判断の細かいルール(どの程度の言葉遣いから削除対象になるのか、など)は、運営ガイドラインとして補足的に示すのがよい場合もあります。基準を会員に見える形で示しておくと、削除された会員の納得感が上がり、他の会員にも「ルールが守られている」という安心感を与えます。
事前の通知については、「事前の通知なしに削除できる」と書くのが一般的です。投稿が違法なものであったり、他の会員を傷つけるものであったりする場合は、通知を待っている間に被害が広がるためです。一方、軽微な違反や判断の分かれる場合には、事前または事後に、削除した理由を会員に伝える運用が、トラブルを防ぎます。つまり、規約上は「事前の通知なしに削除できる」権限を確保したうえで、運用として「原則、事後に理由を伝える」「重大な場合は伝えない」のように段階を設けるのが、現実的です。理由を開示しない定めがどこまで通るかという点は、会員資格に対する措置と共通の問題で、警告・除名のガイドで整理します。
投稿を削除するときの運用の流れ
- 投稿が見つかる/通報を受ける運営者の巡回、他の会員の通報、システムの自動検知など、見つかった経路を記録する。
- 投稿の保全削除する前に、投稿の内容、投稿者、日時を記録に残す(画面の保存や管理画面のログ)。後で説明が必要になったときの材料になる。
- 禁止事項への当てはめ規約のどの禁止事項に当たるのかを確認する。包括条項で対応するときは、趣旨を明確にする。
- 削除・非表示の決定複数の運営者がいる場合は、判断する人を決めておく。迷う場合は、まず非表示にして確認する、という段階を設ける。
- 投稿者への連絡削除した旨と、該当した禁止事項を伝える。重大な違反や緊急の場合は、削除を先行させて事後に伝える。
- 通報者への連絡通報を受けた場合は、対応した旨を通報者に伝える。ただし、投稿者への措置の内容は、詳しく伝えない。
- 記録の保管一連の経過を、一定の期間、運営者の記録として保管する。同じ会員の繰り返しの違反の判断にも使う。
投稿の削除は、会員資格に対する措置(警告、制限、除名)の入口です。削除の記録が、その後の段階的な措置の根拠になります。
書き方の例(一般的な例) 削除に関する条項の書き方
削除の権限と通知
理由「自由に」「理由を示すことなく」という書き方は、削除の基準がないように読めるため、会員の不信を招く。基準(禁止事項・権利侵害のおそれ)と、通知の努力を併記すると、運営者の権限を残しつつ、説明が可能になる。
削除による損害
理由消費者である会員に対して、運営者の責任を全部免除する条項は、消費者契約法8条1項の対象となり、無効とされる場合がある。「規約に従って行った削除」と「運営者に故意又は過失がある場合を除く」で範囲を絞ると、免責の趣旨を保ちつつ、条項の安定が期待できる。
通報の受付:窓口、受付の様式、対応の流れ
会員が、他の会員の投稿や言動に困ったとき、どこに伝えればよいのかが分からないと、不満が運営者の知らない場所(SNSや会員どうしの個別のやり取り)で広がってしまいます。通報の窓口をあらかじめ決め、会員に知らせておくことは、運営の健全さを保つ基本です。
窓口は、できるだけ一つに絞ります。複数の窓口があると、受付の漏れや対応の重複が生じます。窓口の方法は、専用のフォーム、運営者宛てのメッセージ、メールなど、コミュニティの運営形態に合わせて選びます。通報者の秘密を守る旨も、窓口の案内に書いておきます。通報者が特定されるのを恐れて通報をためらうと、問題が表に出なくなるためです。
受付の様式としては、通報者が伝える項目(対象の投稿や言動、日時、通報の理由、希望する対応)をあらかじめ示しておくと、確認の手間が減ります。通報を受けた運営者は、(1) 受付の確認を通報者に伝える、(2) 対象の内容を確認する、(3) 規約への当てはめをする、(4) 必要な措置を決める、(5) 結果を通報者に伝える、という順に進めます。最後の「結果を通報者に伝える」場面では、投稿者に対する措置の具体的な内容は伝えず、「規約に従って対応した」「対応しなかった」程度にとどめるのが一般的です。投稿者のプライバシーに配慮しつつ、通報者の不安を和らげる必要があるためです。
確認の問いと理由通報窓口を作るときの確認の問い
窓口は一つに決まっているか。会員はその場所を知っているか。
窓口が複数に分かれていたり、会員に周知されていなかったりすると、通報が埋もれる。入会時の案内やピン留めの投稿で、窓口を常に見える場所に置く。
通報者の秘密を守る定めがあるか。
通報者の特定を恐れて通報を控えると、問題の発見が遅れる。通報者の氏名を投稿者に伝えないことを規約や案内に書く。
通報を受けてから対応するまでの目安があるか。
対応の目安を会員に示しておくと、通報後の不安を減らせる。運営者が一人の場合は、現実に守れる目安にする。
運営者自身や運営スタッフが当事者の場合、誰が判断するのか。
運営者が関係する苦情は、運営者自身が判断すると公平さを疑われる。別のスタッフが判断する、記録を残して説明するなど、運営体制に応じた手順を決める。
通報を受けたことで運営が知った内容を、どう守るか。
通報には、被害の内容や個人的な事情が含まれる。運営スタッフの間でも、必要な範囲でのみ共有し、閲覧できる人を限る。
窓口の設計は、会員の人数が増えると必要になる事項ですが、少人数のうちに決めておくと、後の運営が楽になります。
ハラスメント(相手が不快に感じる継続的な言動)の通報は、特に慎重な扱いが必要です。会員間のハラスメントは、投稿の内容だけでなく、個別のメッセージ、オフラインの集まり、プロフィールの閲覧履歴などを通じて行われることがあります。規約では、ハラスメントを禁止事項に明記し、通報の窓口に個別のメッセージの内容も添えて伝えられるようにします。運営者は、メッセージの内容を確認できる立場にない場合が多いため、通報者が提出する記録(画面の保存など)を基に判断することになります。運営者が会員の個別のメッセージを確認する場合の定めは、会員情報とプライバシーのガイドで整理します。
「会員間のトラブルに運営者は関与しない」と書くことの限界
会員制コミュニティの規約で、非常によく見られるのが、「会員間のトラブルは当事者間で解決するものとし、運営者は一切関与せず、責任を負わない」という趣旨の条項です。運営者がすべてのトラブルに立ち入っていては運営が成り立たないため、こうした条項を置く必要自体はあります。しかし、この条項の書き方と、実際の運用が食い違うと、後でトラブルになります。
第一の限界は、運営者が実際に関与している場面です。通報を受け付け、投稿を削除し、会員に警告を出している運営者が、「関与しない」と規約に書いていても、実態と合いません。会員は、運営者が窓口を設けているのだから助けてもらえると期待しますし、実際に運営者が動いた場合、その動き方によっては、期待を裏切ったと受け取られます。規約の書き方としては、「運営者は、会員間の紛争の当事者にならず、紛争の解決の義務を負わない。ただし、本規約に基づく措置が必要と判断したときは、投稿の削除、警告などの措置をとることができる」のように、関与しない範囲と動く範囲を分けて書くのが、実態と整合します。
第二の限界は、責任の免除の効力です。消費者契約法は、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項や、責任の有無を事業者が決定する権限を付与する条項を無効としています(同法8条1項1号)。事業者の債務の履行に際してされた不法行為についても、同様の定めがあります(同項3号)。故意又は重大な過失による場合の責任の一部を免除する条項も無効とされます(同項2号・4号)。つまり、「運営者は一切責任を負わない」と書いても、運営者の側の事情による損害まで免れるとは限りません。「会員間の紛争から生じた損害」について運営者が責任を負わないという趣旨を、運営者の故意又は過失による場合を除く、といった形に整えておく方が、条項として安定します。
第三の限界は、運営者が知ってしまった後の対応です。ある会員から、別の会員による執拗な嫌がらせの報告を受けた運営者が、何もせずに放置した場合、「運営者は関与しない」という規約があっても、放置したことが問題になる余地があります。具体的な責任の有無は個別の事情で判断されるため、ここで断定はできませんが、少なくとも、報告を受けて対応した記録があるか、対応しないと判断した理由を説明できるかは、運営者の立場を守るうえで重要です。「関与しない」と書くことと、「何もしない」ことは別だと理解しておく必要があります。
書き方の例(一般的な例) 会員間トラブルに関する条項の書き方
運営者の関与の範囲
理由実際に運営者が動く場面を書いておくと、規約の文言と運用が一致する。「一切関与しない」と書くと、削除や警告をしたこと自体が規約と矛盾するように見える。
運営者の責任
理由消費者である会員との関係で、責任の全部を免除する条項は、無効とされるおそれがある(消費者契約法8条)。故意又は過失の場合を除くという範囲に絞ることで、免責の趣旨を保ちながら、効力の問題を小さくできる。
違法かどうかの判断:運営者がどこまでするか
投稿の中には、誹謗中傷や名誉毀損にあたる可能性があるものがあります。会員に対する脅し、特定の会員をおとしめる事実の指摘、虚偽の風説を流して他人の信用を傷つける内容、など、刑法に関わり得る類型です。具体的には、事実を公然と示して人の名誉を傷つける行為は名誉毀損として拘禁刑又は罰金の対象になり(刑法230条)、事実を示さなくても公然と人を侮辱する行為は侮辱にあたります(同231条)。生命、身体、自由、名誉、財産に対する害を告げて人を脅す行為は脅迫です(同222条)。虚偽の風説の流布や偽計により人の信用を傷つけ、あるいは業務を妨害する行為(同233条)や、威力を用いた業務妨害(同234条)も、運営の妨げになる場面で関わります。
ただし、運営者が、個々の投稿が名誉毀損などに「該当するかどうか」を法律の基準で判断する必要はありませんし、実際には難しい判断です。会員限定の場であっても、閲覧できる人数や参加の仕組みによっては、「公然」に当たるかが問題になり、投稿の内容が真実かどうか、公共の利益に関わるかどうかによって、判断が分かれることもあります。運営者が、違法かどうかを判断しなければ削除できないとなると、運営が止まってしまいます。そこで、実務では、禁止事項の基準を「違法かどうか」にしないで、「コミュニティの目的に反するか」「他の会員に著しい不快や不安を与えるか」といった、運営ルールの基準として設計します。違法性が明白なものは違法性を理由に、そうでないものは運営ルールを理由に、それぞれ削除できる条文構造にしておくと、運営者は判断の負担を軽くできます。
削除などの措置と運営者の責任の関係については、情報流通プラットフォーム対処法(正式名称は、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)が、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限を定めています(同法3条)。この法律は、不特定の者に受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)を対象にしており(同法2条)、会員限定の場がこれに当たるかどうかは、サービスの仕組みや会員の範囲によって判断が分かれる部分があります。そのため、このガイドでは、運営者がこの法律の適用を受けると決めつけた書き方はしません。条文と所管官庁の資料で確認が必要です。ただ、同法3条2項の定めには、権利が侵害されたとする者からの申出を受けて発信者に照会し、一定の期間内に同意しない旨の申出がなかった場合に、送信防止措置を講じた運営者の責任が制限される仕組みがあります。この条文の趣旨は、運営者が申出を受けて照会し、記録を残して対応するという運用の組み立てにも参考になります。
このページで参照した条文の要点(e-Gov法令検索で確認)
- 民法548条の2第2項定型約款の条項のうち、相手方の権利を制限し義務を加重するもので、相手方の利益を一方的に害するものは、合意をしなかったものとみなされる。
- 消費者契約法2条1項・8条・10条消費者の定義。事業者の損害賠償責任を免除する条項の無効。消費者の利益を一方的に害する条項の無効。
- 特定商取引法33条連鎖販売業の定義。会員を増やすと報酬が得られる仕組みの勧誘は、この規制に関わり得る。当たるかの判断は取引の内容による。
- 刑法222条・230条・231条・233条・234条脅迫、名誉毀損、侮辱、信用毀損及び業務妨害、威力業務妨害。いずれも拘禁刑を含む刑罰が定められている。
- 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律2条・3条特定電気通信の定義、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限。会員限定の場に当たるかは、条文と所管官庁の資料で確認が必要。
起きがちなこと
禁止事項・削除・通報の運用でつまずきやすい場面
- 禁止事項が包括条項だけで書かれており、削除された会員から「何が違反なのか分からない」と言われる。
- 営業の禁止を厳しく書いたのに、自己紹介やプロフィール、個別メッセージの場面では例外の扱いが決まっておらず、運営者ごとに判断が分かれる。
- 削除の記録を残さずに投稿を消し、後で会員から「いつ、なぜ消したのか」と問われて説明できない。
- 通報の窓口が複数あり、通報が埋もれて対応が遅れる。通報者の氏名が投稿者に伝わってしまう。
- 「会員間のトラブルに運営者は関与しない」と書いてあるのに、実際には運営者が一部の会員にだけ警告をしており、対応の不公平を指摘される。
- 運営者や運営スタッフ自身が苦情の対象になったときの判断者が決まっておらず、公平さを疑われる。
- 違法かどうかを判断しなければ削除できないと思い込み、明らかに運営ルールに反する投稿を放置する。
禁止事項・削除・通報のルールは、一度書いたら終わりではなく、運営の実態に合わせて見直すものです。規約の改定の手順は内容変更・移行・終了のガイドで、実際にもめたときの整理は規約トラブルとよくある質問で扱います。
よくあるご質問
禁止事項に「その他運営者が不適切と判断する行為」と書いておけば足りますか?
包括条項は想定外の行為への備えになりますが、それだけでは何が禁止かが会員に伝わらず、運営者の恣意的な運用を疑われやすくなります。具体的な行為を列挙したうえで、最後に包括条項を一つ置く形にします。包括条項で措置をとるときは、どの趣旨の行為なのかを説明できるようにしておきます。
投稿を削除するとき、事前に会員へ通知する必要がありますか?
法律上、削除の前に必ず通知しなければならないという一律の定めがあるわけではありません。規約に「事前の通知なく削除できる」と書いておくのが一般的です。ただし、運用として、削除した旨と該当した禁止事項を会員に伝えると、納得感が上がります。重大な違反や緊急の場合は、削除を先に行い、事後に伝える運用も考えられます。
「運営者は会員間のトラブルに一切関与しない」と書けば、責任を負わずに済みますか?
消費者である会員との契約では、事業者の債務不履行の損害賠償責任の全部を免除する条項などは無効になる場合があります(消費者契約法8条1項)。「関与しない範囲」と「措置をとる場合」を分けて書き、責任の免除は運営者に故意又は過失がある場合を除く形に絞ると、条項として安定します。
名誉毀損にあたる投稿かどうかは、運営者が判断しなければなりませんか?
運営者が、法律上の名誉毀損に当たるかどうかを判断してから削除する、という運用にする必要はありません。禁止事項の基準を、コミュニティの目的や他の会員への著しい不快・不安に置き、運営ルールの観点で削除できる設計にしておくのが、実務では現実的です。違法性が明白な場合は、その点も削除の理由にできます。
通報者の氏名を、通報された会員に伝えてもよいですか?
伝えない運用が一般的です。通報者が特定されると、報復や関係の悪化を恐れて通報を控える会員が出て、問題の発見が遅れます。窓口の案内や規約に、通報者の秘密を守る旨を書き、運営スタッフの間でも必要な範囲でのみ共有するようにします。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別のコミュニティへの当てはめは、サービスの仕組みや会員との合意の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会